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毎週金曜〜イワモトサロン〜vol 43

70億人のフォロワーの皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんわ。

 

金曜 岩本康平の ~ イワモトサロン ~  でっす!

 

 

 

毎週 金曜、岩本康平の心に突き刺さった モノ、コト、ヒト、ウタ などなどをお届けするジャングルジム的実験サロン。

 

時に美容師として、時に一人の男として、想いを紡ぐ プレイグラウンドとなっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近めっきり陽が長くなってきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう今年も 夏が来たのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はこの季節がとても好きです。

 

 

 

 

 

故郷の太宰府は山や田んぼや畑に囲まれた町ですので、空を遮るものはほとんどなくそれゆえ幼少の頃からよく空を眺めていました。

 

 

 

 

 

僕には空を眺める秘密の場所がありました。

そこは中学校の裏山にそびえる大きな石造の貯水タンクのてっぺんで、その絶景を知る者はこの世でわずか10人ほどでしょう。

このとても大きな貯水タンクは学校の裏山の突き出した崖の上に建てられていて、その周りには人が近ずけぬよう有刺鉄線が張り巡らせてあります。

 

裏山に続く細道を進むうちに突如そびえるようにして現れるそれは、太古の昔の石工職人が石を削って巨大な宇宙船の発射台を建造した跡のような、町にも時間にも取り残された遺跡のようになっている場所でありました。

ただでさえ崖の上にそびえているので、有刺鉄線をよじ登り 貯水タンクのてっぺんまで梯子で登ると町や空や地球がほんとうに丸いことなどがみてとれるのです。

 

 

 

 

 

学生の頃、僕は好きな女の子をこの秘密の場所に誘って星空を眺めたいと考えました。

当時買ってもらった最新のMDウォークマンも持参してロマンチックな雰囲気に包まれてみたいと思ったのです。

勇気をだして女の子を誘ってみると「虫がいるから嫌だ。」と言っていましたが、なんとかOKまで漕ぎ着け約束の日を指折り数えて臨んだ当日、さて行こうかとしたのはいいのですが肝心のMDウォークマンが見つからなかったのです。家中の畳を引っぺがす勢いで探してみましたがない、どこにもない。

犯人は弟であります。

腹がたつやら悔しいやら弟をぶちのめしてやりたいやら、もうお星様どころではなくなってしまった僕は「ウォークマンが見つからないから行かない。」とその子へ電話してしまいました。

勢いで電話したのはいいものの「あっそ。」と素っ気ない対応をされ、さらにその後 MDウォークマンは弟が失くしたとかで見つからないし僕は悲しみに暮れていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが 月日は流れ、運命は交錯し、ウォークマンは見つかりませんが、再び貯水タンクのところへ行けることになったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は自転車に乗って待ち合わせの場所へむかいました。

手ぶらなのを思案しながら到着すると夏の夕暮れに赤々と染まる公園のベンチでもう女の子は待ってくれていました。「遅い。」といってほっぺたをふくらませているようです。

とかく 女王のように振る舞うその子は海の底の冷たい珊瑚を刻んだような瞳をよそへむけてしらけてみせています。僕はすべらない話などたくさんしまして、ご機嫌もそこそこにさあ行こうかとなったとき、女の子の手に何か握られていることに気づいたのです。

おそるおそる「 それは何?」と聞くと、彼女の手のひらから現れたのは赤青のかわいらしいカスタネットでありました。

女の子は 今度は少しだけ照れた様子で、 それでも目の奥には女王としての一脈の冷たさを失わず

 

「ウォークマンのかわりにきょうはあなたが歌ってくれるんでしょ。」

 

と言って 自転車の後部座席に乗りました。

 

僕は耳の先までかーっとなったのが彼女からみえないように前をむいて、目映い宇宙船の発射台へと出発しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰にでもある ひと夏の思い出というやつですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、

僕らは 夕暮れどきの美しい遠山の色を見たり、幾千の虫がいっせいにふる鈴の音に耳を澄ませたり、同じところにホクロがあるといって笑った。黄昏の夕陽と カスタネットの音が 夏の終わりのかおりをふくんだ風に溶けて空の色へかえっていくと、ようやく二人の友情はうちとけてつむびあうようになっていた。